?誰の事?

 昨夜、いつものように仏様にお詣りした。お勤めを済ませてろうそくが残り少なかったので消えるまでお仏壇の引き出しを開けた。この夏、お寺のごえんさんが、家で今使っていない不要となったお経の本や数珠を檀家から集めて供養をするから…と話しておいでだったのを思い出し、それらを探す思いて中を見た。

 いつも開けている引き出しであったのに、中に不思議な法名を見つけた。色が黄ばんだ一枚の紙、「昭和13年5月18日 法名釋貞駿 戦死」・・・とある。
 はて、誰だろう…我が家で戦死した人がいる…とは一度も聞いたことはないし、遺影の中にもそんな人はいない。でも、戦死と書いてある。
昭和13年、何があったのか? しかも㋄…ひょっとしての想いがあって調べてみた。
昭和13年5月19日 徐州陥落・・・とあった。

 5月18日はその前日だ。私の父は満州に行っていたことは聞いていた。そして、自分の馬が敵弾を受けて死んだこと、動けなくなっても、何度も何度も立ち上がりよろけながら撤退する部隊を追って倒れながらついてきたことを。ヒヒーンとなく声を聴きながら一緒に・・・、逃げる部隊との距離が遠のいていた。戦友の一人が、暗闇の中を「おーい、西村…」と探しに戻ってくれ。手を合わせながら馬と別れた…と。自分の身代わりに弾に当たって…

 一晩寝ながら考えて、多分その馬の名前だろうと…だって、「釋 貞駿」とある。駿の字・・・
父は晩年僧侶になった。本山に上がり、衣を着て戦友の家を訪ねたりしていた。誰にも言わずに仏壇の中に法名を書き入れたのだろう。父の身代わりになってくれたこの法名の主に、こみ上げる思いを持ちながら今夜から手を合わそうと思う。